富田直秀(Naohide TOMITA)     e-mail: tomita.naohide.5c kyoto-u.ac.jp  ←を半角に変えてください。


Dr.Tomita

プロフィール

富田直秀(Naohide TOMITA)材料工学出身。もと整形外科医。現在は医療工学、デザイン、再生医療、バイオメカニクス、バイオトライボロジーなどの研究をしています。

研究とは切り離しておりますが、学生の頃から少しずつ創りためている文章、絵、写真なども公開しています。興味のある方は右のMENUからお入りください。

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2008年09月09日

AとBが同じである事

 リンゴと梨を見比べて,あなたは両者が同じであると感じるだろうか,違うと感じるだろうか.ぼんやりと傍観すると,その類似性は即座に直感できるけれども,相違点を見つけるためには目をこらしてしっかりと見なければならない.しかし,しっかりと目をこらしさえすれば相違点を論文に書くことは比較的容易かもしれない.つまり,色の違い,肌の目の細かさの違い,味の違いなどを整理して書いていけばいい.色の違いは色温度で示し,目の細かさは表面粗さ計で測定し味の違いは糖度でも測定して,それぞれ定量的に表すことさえできる.けれども,類似性を論文にせよと言われると,これはけっこう難しい.うーんと,どっちも丸い,え?じゃあブドウは?トマトは?上にヘタが付いている,じゃあミカンは?と,なかなかきれいな論文には纏まらない.
 A(a1,a2,a3,,)とB(b1,b2,b3,,)とを比べるとき,たった一つの相違点(たとえば a1≠b1)を一つ指摘するだけで両者が異なる事を証明できる.けれども,類似点(たとえば a1=b1)を一つ指摘しただけでは両者が同じである事の証明にはならないし,第一,A,B以外の対照を持ってこないとA(a1,a2,,)などという評価基準自体が適当か否かさえも疑わしい.
 「同じ」という理解と「異なる」という理解を分けるとするならば,科学者は「異なる」方の理解に傾きやすい.論文を書く段階では[ほら,ぼんやりと見たらば同じであることがわかるでしょう]といった表現は許されず,たいていは目をこらしてしっかりと見た結果を書かなければならないからだ.科学者が「違いのわかるヒト」にはなり得ても,なかなかその知識を生活の中で意味のある価値の創造に結びつける事ができない原因の一つが,ここにある.生活という実に多様な構造の中に価値を見つけ出すためには,その多様な中に何らかの類似性を直感したり,共感によって価値観を伝えたりしなければならない場合が多いけれども,そういった直感や共感は論文形式に表すことが難しいからだ.
 現代の科学技術の閉塞感の多くはここに起因していないだろうか.つまり,類似性や価値観の伝達を軽視することによって科学が生活から離れてきてしまってはいないだろうか.もちろん,論理的客観的な正しさの追求は常に厳格でなければならない.ただ,その論理性客観性が物事を分ける方向にばかり特に有用である事は意識しておかなければならない.
 たとえば、医工学では,その研究目標は常に生活における価値感にある.単に医学に関連した研究をしていれば医工学なのでは,決してない.研究結果を実際の価値観に結びつける事のできる知識と経験と,そうして感受性を持たなければ,科学者はとんでもない災いをヒトの生活に与えてしまう可能性がある.たとえば,機械を修理するがごとくに複雑化マニアル化した治療技術は,必ずしも医療現場の改善には結びつくわけではない.多様な病状や社会状況の中で営まれる医療では,たとえば,リンゴと梨のような違いをしっかりと見分けてそれぞれに対処すべき場面もあるが,全く姿のわからない混沌とした相手の中にリンゴとの類似性を見つけて手探りで対処を探していく場面の方が圧倒的に多い.
 わかりにくい表現になってしまっただろうか.我々の生活や医療の現場は,「同じ」という理解,つまり広義のコミュニケーションの上に成り立っている.科学の発展自体も,その土台の上にあることを科学者は忘れがちである.

 ちなみに,「AとBが同じである事」と「AとBが異なっている事」の非対称性に興味がある方は,ブログ「客観性」を読んでみて下さい.私は,ちょっとエキセントリックな仮説を頭の中に潜ませています.
posted by トミタ ナオヒデ at 11:26| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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