質素に過ぎたクリスマスイブの次の日の朝.
出勤に出た夫が駅から空を見上げると、四角く区切られた空に虹がかかりはじめた.
携帯電話を取り出して,妻に
「にじ」
とだけメールを送る.
虹は.しだいにその色を増して青白い大空を南に向かって静かに渡りだす.こんなに大きくはっきりとした虹は初めて見る.妻はこれを見ただろうか.せめて漢字変換をしておくべきだったか,にじ,だけでは二時だか二次だかわからんだろう.
「あっ!ほんまやー いつもあそこにかかるなあ,にじ」
と妻からの返事.
そうだ、家から見るといつもあの山の上に虹が架かる
虹は見上げる人によって,その場所も色も違って見える.同じ所に住んでいるから,いつも同じ虹を見るのだ.
まあ,これがクリスマスプレゼントみたいなもんやな.
と夫は心の中で思う.
家では,メールを送り終えた妻が台所の窓を閉めて食器を洗い始める。
「疲れるやっちゃな.ほんまに.」
と、小さなため息。

プロフィール
富田直秀(Naohide TOMITA)材料工学出身。もと整形外科医。現在は医療工学、デザイン、再生医療、バイオメカニクス、バイオトライボロジーなどの研究をしています。
研究とは切り離しておりますが、学生の頃から少しずつ創りためている文章、絵、写真なども公開しています。興味のある方は右のMENUからお入りください。
E-Mail: tomita.naohide.5c@kyoto-u.ac.jp
(@を半角に変えて下さい。たくさんのメールをいただいており、お返事できない場合が多いと思います。申し訳ありません。)