富田直秀(Naohide TOMITA)     e-mail: tomita.naohide.5c kyoto-u.ac.jp  ←を半角に変えてください。


Dr.Tomita

プロフィール

富田直秀(Naohide TOMITA)材料工学出身。もと整形外科医。現在は医療工学、デザイン、再生医療、バイオメカニクス、バイオトライボロジーなどの研究をしています。

研究とは切り離しておりますが、学生の頃から少しずつ創りためている文章、絵、写真なども公開しています。興味のある方は右のMENUからお入りください。

E-Mail: tomita.naohide.5c@kyoto-u.ac.jp
(@を半角に変えて下さい。たくさんのメールをいただいており、お返事できない場合が多いと思います。申し訳ありません。)

2012年12月03日

病人・身障者クロッキー (虫の目活動 その1)


  医療現場には,そこに入ってみなければなかなか理解することのできない「冷たさ」がある.たとえば,患者の痛みを自分の痛みとして捉えるならば,針一本,メスの一太刀もその肌に施すことはできない.私が研修医であったころには「痛みは患者持ち,と思わなければ治療を冷静に行うことはできない」と教えられた.身体を構造物として扱う徹底した冷たさも,医療従事者には求められている.その冷たさを補うのがコミュニケーションと記憶力なのだと思う.コミュニケーションの大切さは常に語られるが,目の前の構造物がどのような名前を有していて,どのような表情で話をして,どんな生活をしていて,何に困っていて,何を喜びとしているか,どんな家族がおられてどのような背景を背負っておられるのか,,,,と,その人の歴史を知り,憶えていることのできる記憶力も,医療に求められる「職業的な」優しさの中核にある.子供のころから名詞を覚えることのできない脳を有している私にとって,臨床は一つの試練の場でもあった.私が研修医であった頃,その左手の手背には憶えねばならない患者情報がいつも真っ黒に書かれていたのを思い出す.臨床を離れて医療技術の開発研究を行っている現在は,手背に文字を書き込むことはなくなった.文字で表すことのできる情報は手背ではなく,きちんと紙やコンピュータに記録することができる.そこで気がついたのは,(思えば当たり前のことなのだが)言葉や数字では表わされた情報の本当の意味は言葉や数字では表わされていない,ということだった.
  前回(2012年11月13日)のブログで,不自由な生活を続けている親戚の方のクロッキー画を描かせていただいたことや,来年度から病人や身障者のクロッキー画を描くワークショップを始めることなどを述べた.言語に表されないその人の情報を形に残し,頭に叩き込む作業が医療(または医療技術開発)に必要不可欠である,と考えるからだ.一般の技術開発のように,要求事項を言葉や数字で表現し,それのみを仕様として設計をすすめると,医療技術は時として「質」を大きく損なう.たとえば,よく見えることだけを仕様にしてメガネを作成すると,画像が歪んだり目が疲れたりしてかえって日常生活に支障が出る場合がある.さらに,デザインや色など,言葉や数字で表すことのできないその人の生活を「みる」ことができて,初めてメガネという技術が意味を持ってくる.もちろん,文字や数字で表された情報も重要であるが,技術の「質」はそれだけでは達成されない.ただその「みる」という能力が,病人や身障者のクロッキー画を描くワークショップで鍛えられるのか否かは,その評価方法がない.私の思い込みなのだろうか.まだワークショップを始めていない現時点では未だ「絵に描いた餅」だ.
  一つだけ言い訳をするならば,現行の医療技術開発の多くがもともと絵に描いた餅のようなのだと思う.医療技術開発の多くの活動は,餅にならない絵を(莫大な税金を投じて)描き続けている.事業化(つまり持続的に役に立つ仕組)の見込みの無い医療技術開発に,国はいったいどれだけお金をつぎ込めば気がすむのだろうか.また,開発者たちは自身の技術が本当に医療現場を良くするという確信があるのだろうか.私を含めて,研究者たちは,患者をそうして医療全体を本当に「みる」ことをしているのだろうか.臨床現場や医療技術の開発現場では,文字や数字で表された情報のみが氾濫しているのではないだろうか.米国に次ぐ世界第二位の優れた基礎研究を胎内に擁する日本の医療技術開発には,医療の生々しい現場から社会経済全体を達観した目利きが働いているとはとうてい思えない.いや,かく言う私自身にも目利きの目はなく「本当に役に立つだろうか」と悩みながら手探りで進んでいる.個々の患者を「みる」ことができる人材と,ビジネスモデルを構築して持続的に役に立つしくみを「みる」ことができる人材とがかい離をしたまま,日本の医療技術開発は世間の期待に押されて暴走している.
  日本の医療技術開発の抱えるこの膨大な無駄に比べれば,単なる思い込みであるのかもしれないクロッキーワークショップは,せめても私たちに何らかの新しい目を開かせてくれるのかもしれない,なによりも,この活動は名誉や権力の暴走に無縁であるからだ.無駄かもしれないが,もぞもぞと進めてみようと思う.,,まあ,研究室の引っ越しと,卒論修論が終わって時間ができてからだが,,,本当に時間ができるだろうか,,,


posted by トミタ ナオヒデ at 08:42 | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

この記事へのトラックバック
京都大学 工学研究科 機械理工学専攻 医療工学分野(医学研究科 生体工学分野) 
〒606-8501 京都市左京区吉田本町 京都大学工学部物理系校舎
医療工学研究室 富田研 425号・426号
Copyright (C) Tomita Laboratory. All rights reserved.

いちご会