富田直秀(Naohide TOMITA)     e-mail: tomita.naohide.5c kyoto-u.ac.jp  ←を半角に変えてください。


Dr.Tomita

プロフィール

富田直秀(Naohide TOMITA)材料工学出身。もと整形外科医。現在は医療工学、デザイン、再生医療、バイオメカニクス、バイオトライボロジーなどの研究をしています。

研究とは切り離しておりますが、学生の頃から少しずつ創りためている文章、絵、写真なども公開しています。興味のある方は右のMENUからお入りください。

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2013年01月16日

名前付きの仕事

   15日のブログに,「『誇るべき研究』とは,もちろん論文のみを意味しているのではない」と書いて論文を目的とした研究を非難しておきながら,その同じ日に学生には,「論文は,時代を超えて名を残すことのできる数少ない仕事の一つだ」などと言って,論文の重要性を語っている.どちらも私の本心であって嘘はないのだが,,誇れる仕事とは何だろうか,という私の迷いは今もまだ続いている.

  ところで,家の屋根裏に無造作に置かれていた古い掛け軸の中に,私が特に気に入っている作品がある.朝起きると床の間にか下げられたその絵をしばらく眺め,出かけにまた視線を送り,帰ってくるとまた見る.その構図にはどこかぎこちなさがあって,しかし,その繊細な描写から想起する精神性が尋常ではなく,何度見ても飽きが来ない.この構図と描写のちぐはぐさは,模写に感じるあのモゾモゾとしたちぐはぐさとも異なっている.構図も描写も非の打ち所が無い,のではなく,むしろその構図の微妙なぎこちなさと描写の素晴らしさが重なり合って,作者の生き様が心に迫ってくる感がある.名人が隙なく描いて見せる秀作もいいが,それとはまた違った,どこかねちねちとした命がけの重さがある.
  この絵は,高い評価を受けなかったからこそ,こうして私の目の前にあるのだろう.しかし,毎日眺めていると,これこそが時を超えても輝きを失わない「誇れる仕事」なのだ,と,頭ではなく実感としてそう感じる.
  絵画も研究も,時代を超えて保存されるための,つまり何らかの財産として認められるための基本的な技術は備えていなければならない.その上で,本当に誇れる第一級の仕事であるか否かは,多くの人が長い時間をかけてじっくりと付き合ってみてはじめてわかるのではないだろうか.その時代の評価云々に,そう焦ることもないのだろう.
  あとにつなげることのできる仕事を完成させるのであれば,自分の名前を残しても残さなくてもいいのだろう.しかし,たとえば,もうだめだ,と途中で息が途切れそうになったり,実際に息が切れて野垂れ死にをしてしまったとしても,信念に従ってさえいればどこか大きく構えていられるのは,研究や芸術や報道,,といった仕事が名前付きであることも大きな要因なのではないだろうか.
  名前付きの仕事を残す,ということは,単なる自己表現や自己顕示だけではなく,ヒトがその時代の評価に惑わされずにおおらかに一生を終えるための一種の祈りのようなものかもしれない.



posted by トミタ ナオヒデ at 08:36 | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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