富田直秀(Naohide TOMITA)     e-mail: tomita.naohide.5c kyoto-u.ac.jp  ←を半角に変えてください。


Dr.Tomita

プロフィール

富田直秀(Naohide TOMITA)材料工学出身。もと整形外科医。現在は医療工学、デザイン、再生医療、バイオメカニクス、バイオトライボロジーなどの研究をしています。

研究とは切り離しておりますが、学生の頃から少しずつ創りためている文章、絵、写真なども公開しています。興味のある方は右のMENUからお入りください。

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2013年02月03日

目に見えない絶望

  外から見ることのできない絶望というのは,とことん目に見えず,また他人に理解されることもないのだと思う.先日,性同一性障害の人とお話をさせていただく機会があった.その人の持つ絶望は,どう言葉で表現しても理解されないのだろうと思う.その人に限らず,誰もがそれぞれの「目に見えない絶望」を抱えていて,お互いの絶望が共鳴し合うことはあっても,理解し合うわけではない.この目に見えない絶望が,芸術という活動の胆のところにあるのだと,私は勝手に決め付けている.
  2年ほど前に,藤浩志という芸術家の講演を聞いたことがある.彼は,鴨川に鯉のぼりを流したり、地面にお米を敷きつめたり,そのお米から無数のカエルを作ったり,ペットボトルをつなげてドレスを作ってファッションショーをしたり,いらなくなったおもちゃを交換する催しを主催したり,,とにかく,これまでの芸術家というイメージからは外れた活動をしている.それでも彼が芸術家であるのは,彼が芸術家としての基礎を身につけているからであり,芸術家であると社会から認められているからだろうが,私にとっては,何よりも藤浩志の活動や作品の中に漂っている目に見えない絶望の匂いが彼を芸術家たらしめているように思う.   「暗い」ということでは決してない.「目に見えない絶望」は,時として,はた目にはかえって明るくひょうきんでもある.たとえば,身体の病気やいじめや差別といった目に見える絶望が,逃れようとしても逃れることのできない暗さを有しているのに対して,目に見えない絶望は逃れようとすること自体がおかしいほどに,その絶望が自分自身の内面の姿そのものでもある.夕日や星を見て,ああきれいだ,と感じているのは私ではなく私の絶望なのかもしれない.
  いかに感動的な作品であっても,作者の絶望の匂いが感じられなければ,それは芸術ではなく感動を目標としたデザインであると,私は決め付けている.藤浩志の持っているかもしれない目に見えない絶望を私は全く理解していないが,私だけではなく多くの人と共鳴し合う,個性の根源のような絶望が,芸術家としての彼の中にはあるのだろう.ゴッホの風景画,ショパンのプレリュード,竹久夢二の黒船屋,,,,,それらの作品が私に新鮮な出会いを感じさせるのは,彼らが感動を仕様としたデザイナーである以前に芸術家であるからだろうし,それは私の思い込みによれば,それぞれの目に見えない絶望が,私のそれとどこかで共鳴しているからなのだろうと思う.
  ところで,その性同一性障害の方が,本来の自分にはふさわしくないその乳房を切り取る手術を計画しているのだという.芸術分野に進んでいるという,自分の子どもくらいの年齢のその人に,私は初期乳がんを患った妻の話やら,そもそも自分とは何か,などとピント外れな話をしてそれに反対した.あれからもいろいろと考え続けているのだが,そうしてその結果としてこの文章を書いているのだが,私の目に見えていないその人の絶望は,その人にとっては厳然とそこに見えているのだから,その対象を取り除こうとするのはむしろ自然の流れなのかもしれない.ただ,手術の是非どうのこうのといったことではなく,外から見ることのできない,決して他人に理解されない「目に見えない絶望」が,一方では多くの人と共鳴し合い,それがその人のとても貴重な個性とモチベーションを形作る可能性もあるのだ,と私は信じている.


posted by トミタ ナオヒデ at 11:27 | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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