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Dr.Tomita

プロフィール

富田直秀(Naohide TOMITA)材料工学出身。もと整形外科医。現在は医療工学、デザイン、再生医療、バイオメカニクス、バイオトライボロジーなどの研究をしています。

研究とは切り離しておりますが、学生の頃から少しずつ創りためている文章、絵、写真なども公開しています。興味のある方は右のMENUからお入りください。

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2007年08月10日

実用化研究にボランティア精神を

The Division, 巻頭言(予定)

 果たして自身の研究はどれほど臨床の役に立っているのか、と自問しますと何ともふがいない感覚に襲われます。生体材料や再生医学研究をコンピュータ作りにたとえるならば、日本ではたくさんの高性能チップが作られているにもかかわらず実際に役に立つコンピュータを組み上げる技術に乏しい。その点、米国の生体材料研究は実にスムーズに臨床につながっているようにみうけられます。米国の生体材料研究に見習うべきことは多いのですが、しかし、やや商業主義的な臭いの拭いきれない欧米の発表を見聞きしますと、ああ、これも自分が目指している方向ではない、と感じてしまいます。
 研究者が客観的事実に忠実でなければならないのは当然のことですが、生体材料学のような応用研究ではさらに研究者がボランティア精神を持つことが大切なのではないかと考えます。ボランティアとは一般に「人のために無償で行う活動」と思われているようですが、これは誤解で、「自分の良心のために自ら率先して行う行動」が本来のボランティア精神であろうと思います。たとえば最新式の機器さえあれば論文にして体裁のいいデータを比較的容易に得ることができます。そういった体裁のいいデータを組み合わせることによって材料を良くも悪くも表現できる場合も希ではありません。そもそも「良い」とは科学的な考察から導かれるべき言葉ではないのですが、実用化研究ではしばしばこの良し悪しの判断が要求されます。たった一つの結果からでも「悪い」とする結論を得るのは可能です。たとえば、発癌性を強く疑わせるデータはそれだけで「悪い」の結論を導き得ます。しかし、考え得るすべての場合において良くなければ本来「良い」の結論に至ることはできません。つまり、必ず unknown factor のある実用現場においては科学的に「良い」の結論は導き得ないことになります。しかし、すべての論文が「悪い」の判断であれば実用化研究は先に進むことができませんので、開発に関わる論文では条件を限ってその中における「良い」の判断を下します。たとえば、○○の条件下において値は△△となる。といった論文で△△が一般に「良い」結果であった場合には、この論文は「良い」の判断を示した論文であるとされます。もし○○の条件が比較的実状に合致している場合にはその材料が「良い」ように理解されます。しかし、前述のように臨床においては必ず unknown factor がありますので、○○の条件で完全に現状を反映させることは不可能です。このように厳密には科学的ではない「良い」の判断に対して、誰よりもまず自分自身の良心を納得させる努力がボランティア精神ではないかと思うのです。具体的には、この材料や技術にはどこか悪いところはないだろうか、と徹底的に探そうとする努力です。このことは簡単そうでいて非常に難しい姿勢です。なぜならば、科学者は分かっている事柄を定量化し評価するのには慣れていますが、何が問題であるのかも分かっていない事項を探し出す作業には多くの時間と努力とを必要とするからです。そうしてその努力は多くの場合、自己の業績に関わらないか、または、かえって業績評価を下げてしまう結果となる場合もしばしばだからです。

 かく偉そうに述べました私も自身の研究を振り返りますと、つい目先の業績に目を奪われて、十分な誠意を尽くさずにすぐに「良い」の判子をペタンと押してしまっているようです。何ともふがいない限りです。

posted by トミタ ナオヒデ at 13:36| 論文調の独り言 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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